AIを使えば、調査や文章作成にかかる時間を大きく減らせる。Web制作でも、構成案の作成やプログラムの補助、情報整理など、活用できる場面は多い。
一方で、AIがもっともらしい誤情報を生成する「ハルシネーション」は、今も注意が必要な問題だ。
2026年9月には、琉球大学の島袋純教授が執筆した『無責任の体系と沖縄戦』に、実在しない国際裁判の判例が3件掲載されていたことが判明した。著者はAIを使って判例を検索し、十分に確認しないまま採用していたという。出版社は書籍の回収と絶版を発表した。
参考: 47NEWS:琉球大教授の沖縄戦書籍、AI架空判例で回収絶版に
高文研:『無責任の体系と沖縄戦』回収・絶版のお詫びとお知らせ
今回の問題は、AIが間違った情報を出したというだけではない。AIを使う側が、その情報をどのように受け取り、検証し、利用したのかという点にも目を向ける必要がある。
AIは、利用者の考えに沿って回答を組み立てることがある
AIとの会話では、利用者が自分の考えや解釈を伝えることができる。
たとえば、あるニュースについて「この出来事は単なる確認不足ではなく、特定の考え方が影響していたのではないか」と伝えれば、AIはその視点を踏まえて論点を整理したり、考えられる背景を説明したりする。
これは、AIを活用するうえで便利な性質だ。
利用者の意図や前提を共有することで、一般論に終始せず、自分が知りたいことに沿った回答を得やすくなる。文章の推敲でも、何を伝えたいのか、どのような立場から書くのかを明確にすれば、目的に合った文章を作りやすい。
しかし、ここには注意すべき点もある。
利用者が示した解釈をAIが尊重することと、その解釈が事実として正しいことは別だからだ。
AIは、利用者の問題意識を出発点に議論を深めることができる一方、提示された前提をそのまま受け入れたり、その見方に沿う説明を優先したりすることもある。
その結果、利用者の考えを補強する回答が返ってきても、それだけで自分の見方が正しいと確認できたことにはならない。
解釈を伝えることと、事実を変えてしまうことは違う
AIに背景や解釈を伝えること自体が悪いわけではない。
むしろ、複雑な問題を考える際には、複数の仮説を提示したり、どこに疑問を感じているのかを説明したりすることが役立つ。
問題は、その解釈を検討するための材料と、解釈を裏付ける事実とが混同されることだ。
たとえば、歴史的な出来事について、ある判例が存在するとAIが回答したとする。その判例が自分の考えに合っていたとしても、実際に記録が存在するかどうかは別途確認しなければならない。
「こういう背景があったのではないか」と考えることと、「その背景を裏付ける資料が実在する」と判断することは、明確に区別する必要がある。
今回の書籍の問題も、AIが生成した情報を、実在する判例として検証せずに採用してしまった点にある。
AIが示した内容が自分の考えに合っているほど、疑う必要性を感じにくくなる可能性もある。だからこそ、納得できる回答が得られたときこそ、根拠を確かめる姿勢が重要になる。
AIとの対話では、自分の考えを補強するだけで終わらせない
AIを使って調査や記事作成を行う場合、質問の仕方によって回答の方向性が変わることがある。
「この主張が正しい理由を説明して」と尋ねれば、その主張を支える材料を中心に回答が構成されやすい。一方、「この主張を裏付ける事実と、反対の材料を分けて整理して」と依頼すれば、別の角度から検討するきっかけになる。
ただし、質問を工夫すればAIの誤りがなくなるわけではない。反対意見を求めても、AIが誤った情報を生成する可能性は残る。
大切なのは、AIの回答を結論ではなく、検討するための材料として扱うことだ。
実際に確認できる事実なのか。出典は存在するのか。引用された文章は原文と一致しているのか。複数の解釈が考えられる場合、どこまでが事実で、どこからが推測なのか。
こうした点を分けて考えることで、AIの回答をより適切に活用できる。
Web制作でも、AIの回答をそのまま成果物にしない
この問題は、歴史研究やニュース記事だけに限らない。
Web制作でも、AIにプログラムを書かせたり、SEO記事を作成させたり、技術仕様を調べさせたりする場面が増えている。
コードが一見正しく動いても、セキュリティ上の問題が潜んでいるかもしれない。存在しない関数や設定項目を提示されることもある。SEO記事でも、もっともらしい説明の中に、根拠のない仕様や誤った情報が混ざる可能性がある。
AIが出力したものをそのまま採用するのではなく、公式ドキュメントや実際の動作を確認し、成果物として問題がないか判断する工程が必要だ。
特に、利用者に公開する文章や、実際のシステムに組み込むコードでは、誤りがそのまま信用や安全性に影響する。
AIを使うことで作業時間を短縮できても、最終的な確認まで不要になるわけではない。
AIに考えを伝えながら、AIの回答も疑う
AIは、利用者の考えを整理し、別の視点を探り、作業を効率化するための有用な道具だ。
こちらの意図を理解させるために背景を伝えることも、仮説を提示して議論を深めることもできる。
しかし、AIがこちらの考えに沿った回答を返してくれたとしても、それは事実の裏付けにはならない。利用者の意図を尊重することと、事実に忠実であることは、必ずしも同じではないからだ。
AIのハルシネーションを防ぐためには、生成された情報の確認が欠かせない。それと同時に、自分の考えに合う回答を得たときほど、根拠を確かめる必要がある。
AIに何を尋ねるかだけでなく、返ってきた回答をどう扱うか。
AIを活用する時代だからこそ、便利さと検証の両方を手放さない姿勢が求められている。














